書評「進化ゲームとその展開」

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過去10年ほどの間に急速に展開を始めた「進化ゲーム」とよばれるゲーム理論
の分析手法を、認知・行動科学への応用可能性を中心にさまざまな観点から
「広い意味でのゲーム理論」として論じる書。



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「ゲーム理論」は経済学において既にその地位を十分確立しているがいまだに
懐疑的な人がいるのも確かである。それは往々にして過度な期待の裏返しなの
だが、私も以前から引っかかるところがあった。

それは、「Win-Winの原則」である。

ナッシュ均衡は全員が自分の戦略を変更してもより高い利得を得ることができ
ない状況であるが、例えば、自分の利得が変わらないなら相手の利得がより多
くなる戦略がナッシュ均衡となる。

心情的に、そうなのかな、と私などは思うわけだ。

自分が1万円もらえるときに、相手が1万円もらえる場合と、自分がもらえるの
が1万円のまま相手が2万円もらえる場合がある場合、素直に相手に2万円もらっ
てほしいかどうか。

幸福は相対的なものなのである。常に他人と比較をして一喜一憂するのが人間
なのだ。

で、本書は、認知・行動科学の観点からゲーム論を研究したもので、一部私の
問いにも答えてくれる。それが、「スパイト(嫌がらせ)行動」である。

人間だけではなく、自然界にも自分の利得を若干低く抑えても相手により大き
なダメージを与える戦略をとる場合がある実例を示していて、それが長期的な
生存競争に有利であることを説明してくれる。

合理的でない行動を情報の欠落によるものと説明するだけではなく、より本質
的なところに迫っていく試みはもっと評価されてよい。

システムの研究とは人間の研究なのだ。

著者の一人が東工大の価値システム専攻にいらっしゃるということなので今度
お話に行ってこようかな。

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